骨はついたのに曲がらない!〜手指骨折治療の落とし穴
- 2022年11月28日
- 手の病気・ケガ
手指の骨折で治療を受け、「骨はついたので、どんどん動かしてください」と言われたが、いつまでたっても動きが改善しないと受診される方がいらっしゃいます。手指骨折の多くは手術をせずに改善しますが、治療方法が間違っていると変形や可動域制限が残ってしまう場合があります。ここでは手指骨折治療の落とし穴と変形に対する手術法について説明いたします。
※ここでは指の骨折で比較的多い基節骨骨折を例に解説いたします。
手指骨折治療の落とし穴
手指骨折の多くは手術をせずに治りますが、
「手術をしないで治る=治療は簡単」ではなく、落とし穴が潜んでいます。
これが多くの指骨折での基本的固定法となりますが、残念ながらうまく固定できていないケースは少なくないのです。
これは他院で小指基節骨骨折の治療を受け、リハビリのために当クリニックへ来られた患者さんのレントゲン写真です。一見正しい固定がされているように見えますが、実際は大きくズレていました。
左のイラストのように、骨折部分で大きく反ってしまっています。正しい固定・骨の位置は右のイラストです。
これだけズレが大きいと、すぐに気づきそうですが、
実際のレントゲンでは、他の指に骨折部分が埋もれてしまい、見落としてしまう事があるのです。
この方はズレたまま骨がついてしまっており、しっかり握り込むことが出来なくなっていました。この例のように、ズレたまま骨が治ってしまう事を「変形治癒」と言います。
変形治癒の治し方
このまま放置すると、小指がしっかり握れないだけでなく、
- 小指の第二関節が伸ばしにくくなる
- 薬指の曲がりも悪くなってくる
といった事が徐々に発生してきますので、ずれた骨を矯正する手術が必要となります。
イラストのように骨折した部分で骨を一旦切り、正しい位置に戻します。
骨の固定には様々な方法がありますが1,2、私が好んで用いているのが「髄内スクリュー」です3,4。
ヘバーデン結節の関節固定などに用いられるスクリューを骨の中に埋め込みます。メリットとして、
- スクリューを挿入することで骨同士の圧迫が得られ安定する。
- 骨に埋め込むので、腱などの周りの組織と干渉しない。
- 抜去手術が不要。
といった点があり、スムースにリハビリを進める事ができます。
「困っているけど手術まではしたくない」と仰る方もおられますが、放置すると一本の指だけの問題では済まなくなる場合があるため、しっかり治療を受けられる事を勧めています。
手指骨折の多くは手術をしないで治療することが可能で、その結果も良好な事が多いのですが、あくまでも「正しい方法で行われる」事が前提で、それは決して簡単ではありません。
病院・クリニックで手指骨折の治療を受けたが、経過が良くないと感じている方、治療に不安を持たれている方は、手の構造を熟知し、正しい固定法の知識と技術を持った「手外科専門医」の受診をおすすめいたします。
関連ブログ:
指の骨折 〜その固定、正しいですか?トラブルを避けるために〜
(文責・イラスト:院長)
参考文献:
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