ばね指手術後のトラブル 〜この手術って失敗?〜
- 2021年9月13日
- 手の病気・ケガ
目次
ばね指手術のほとんどは、腱鞘を切開するシンプルなものです。手術をすればすぐに良くなる、という認識の方も多いかもしれません。そのため、手術後に症状がなかなか改善しない場合、手術は失敗だったのでは?と心配される方もおられます。ここでは、ばね指手術後の症状や合併症について解説いたします。
手術は簡単なんだから、すぐ良くなるんでしょ?
そうとも限りません。ばね指手術の成功率は高く(90%以上)、ほとんどの方は症状が良くなりますが、回復までの期間には個人差があります。
回復まで2ヶ月以上かかる患者さんが20%という報告もあり1、すぐに良くならない方は意外と多いのです。中には、回復まで半年近くかかる方もおられます。
回復が遅いのは、どんな人に多い?
・最初の症状が出てから、手術までの期間が長い方
・ステロイド注射を何回も受けている方
・手術前、第二関節の伸びが悪かった方
このような方は、手術後の回復に時間がかかる傾向にあります。
どんな症状が多いの?
・指が動かしにくい、ごわつく感じがあるなどの不快感
・傷の部分の痛み、腫れ
といった症状が多いです。
このような症状が1-2ヶ月程度続いているという方は、手術の失敗ではなく、時間の経過とともに改善することがほとんどですので、ご安心ください。
注意したほうが良い症状は?
非常にまれではありますが、不適切な手術による症状もあります。
ひっかかりが治らない
腱鞘の切開が不足している可能性があります。症状が軽ければ、ステロイド注射で改善することもありますが、再手術が必要となることが多いです。
いつまでたっても指が伸びない
症状が長く続いていた場合、腱鞘を通る腱自体が、「変性」といってバサバサになっていたり、太くなっている事があります。このような場合、手術前から指の伸びが強く制限されている事が多いです。
指の腱鞘は沢山ありますが、教科書的に全部切開してはいけないとされる腱鞘があり、それがA2腱鞘です。
通常のばね指手術では、イラストに示した「A1」腱鞘を切開します。「A2」腱鞘は指のまがりに重要であるため、切るとしても1/4~1/3程度にとどめるべきとされています。おおむね、指のつけねのしわくらいまでです。
(最近の研究では、A2腱鞘を全部切開しても大丈夫であるとする見解もあります。実際、重度のばね指ではA2腱鞘を全部切開しないと改善しないケースがあり、私も行う事があります。ただし、皮膚の切開法などに一工夫が必要です)
イラストのように、「A2」腱鞘の先端近くまで腱が太くなっていると、いくら「A1」腱鞘を切開しても、腱はスムースに通過してくれず、伸びないままとなります。
これは、腱鞘のエコー画像です(上:ばね指 下:正常)。
上の画像では、「A2」腱鞘の内部の腱が太くなっているのが分かります。
このような状態ですと、ステロイド注射で改善する事もあるのですが、良くならない場合、太くなった腱を部分的に切除したり、A2腱鞘の追加切開手術が必要となります。
手術前より指の曲がりが悪くなった
ばね指の手術を行う医師は、腱鞘とその周囲組織の位置関係・構造をよく理解している必要があります。
しかしそうでない医師だと、A1腱鞘切開のみでひっかかりが改善しないと、皮膚切開を伸ばしてA2腱鞘まですべて切ってしまうことがあるのです(非常に稀ではありますが)。
イラストのように、「A2」腱鞘まで切ってしまうと、腱が浮き上がってしまい、指の曲がりが極端に悪くなる事があります。こうなると、自然回復は望めず、腱鞘を作る手術が必要となってしまいます2。
ただこの浮き上がりは、指のつけね部分にある皮膚と靭帯(水かき靭帯)を温存することによって防ぐ事が出来ます。
ばね指の手術は、腱鞘を切開するシンプルなものですが、全ての患者さんが「簡単にすぐ良くなる」ものではない事をご理解いただければと思います。
「切ったら終わり」ではないので、手術後の事まで詳しく説明してくれる医師に手術を受けていただければ幸いです。
また、すでに手術を受けられ、経過が芳しくないとお考えの方には、手外科専門医への受診をおすすめいたします。
当クリニックでの手術方法については、コチラをご覧ください。
(文責・イラスト:院長)
参考文献:
-
Factors Causing Prolonged Postoperative Symptoms Despite Absence of Complications After A1 Pulley Release for Trigger Finger.
Baek JH, Chung DW, Lee JH. J Hand Surg Am. 2019 Apr;44(4):338.e1-338.e6. -
Bowstringing as a complication of trigger finger release.
Heithoff SJ, Millender LH, Helman J. J Hand Surg Am. 1988 Jul;13(4):567-70.