テニスしないのにテニス肘?
- 2024年4月10日
- 手の病気・ケガ
目次
物をもったり、タオルを絞ったりといった動作で、肘の外側が痛くなるテニス肘。テニスプレイヤーに多いことから、この名がついていますが、テニス以外にも多くの原因があります。
テニス肘とは?
手くびを起こす・強く手を握るなどの動作で、肘の外側が痛くなる病気です。
肘の外側の骨には、手くびや指を伸ばす筋肉の腱が集中してついています。この骨と腱の結合部分がもろくなり、痛みが発生するのがテニス肘(上腕骨外側上顆炎)です。
1883年に、テニスのバックハンドストロークで肘の外側が痛くなる病気として報告された事から、テニス肘と呼ばれています。もちろん、テニスをする方だけでなく、重いものを持ったり、タオルを絞るなどの動作でも痛みがでます。
ほっといたらどうなるの?
テニス肘は自然治癒しやすい病気です
一旦もろくなった腱は、基本的に再生はしませんが、痛みは時間とともにおさまる事が多いです。
発症してから1年後には80%は治るという報告や、治療を受けた人と受けない人で、1年後の痛みに差はなかったとの報告もあり1、自然治癒しやすい病気と考えて良いと思います。
ただ、1年以上症状が続く場合、治りにくくなる傾向があります。
当クリニックにも長期間テニス肘に悩んでいらっしゃる方が多く来院されています。治りやすいとは言っても、もろくなった腱を元に戻す治療は現在の所ないため、早めの治療をおすすめいたします。
原因は?
手くびを動かす動作を繰り返し行う事による腱へのストレスが原因です。
肘の外側にある上腕骨外側上顆という骨の部分には、手くびや指を起こす・伸ばす筋肉がたくさんついています2。この内、手くびを起こす筋肉の一つである、短橈側手根伸筋という筋肉の付け根にある腱がいたんで発生する事がほとんどです。
この腱はもともと血行が乏しいため、治りにくいのです。
テニス肘は日本語で”上腕骨外側上顆炎”と呼びますが、実際に炎症が起きるのは初期だけで、ストレスを受けた腱が治りきらずにもろくなる”変性”という状態であることが分かっています。
どんな人がなりやすい?
テニス肘になりやすい要素として
- 手くびを起こす動作の繰り返し
- 重いものを持ち上げる動作
- 不自然な姿勢
- 喫煙
- 手根管症候群
- 手くびの腱鞘炎
などがあります3。男女で発生率に差はないようです。
多くは強く握る、重いものを持つなどの動作で発生しますが、パソコン操作のように、大きな力は必要なくても、手くびを起こしている姿勢を長時間続ける事によっても発生します。
診断方法
多くの場合、肘の外側の圧痛(押した時の痛み)や、いくつかのテストを行う事で、診断は比較的容易ですが、必要に応じて検査を追加します。
エコー検査
腱が腫れていたり、傷んだ腱の部分が黒く写ります。炎症が強い時期は血流が増加している場合もあります。
MRI検査
腱が骨から剥がれていたり、腫れている様子がわかります。テニス肘には、関節の中の異常(滑膜ひだなど)が合併していることがあります。関節の中はエコーでは見えないため、MRIが有効です。
テニス肘と紛らわしい病気
テニス肘の診断において、注意しなければならないのが神経の障害です。
テニス肘の原因の大半である短橈側手根伸筋のそばには、橈骨神経という神経が通っています。この神経が、筋肉や血管などに圧迫されると、テニス肘に非常によく似た症状を出します(橈骨神経管症候群)。
しびれがあることは稀で、テニス肘と同時に起きることもあるため、診断は難しい事が多いのですが、痛みの場所やエコー検査、神経ブロック注射などを行い診断します。
コチラの記事で詳しく解説しております。
治療方法は?
サポーター・スプリント
腕に巻き付けるタイプのサポーターです。筋肉を圧迫することにより、腱が骨についている部分へのストレスを和らげます。
痛い骨の出っ張り部分から少し先(指3本分くらい)に巻くこと、力を入れた時に少し圧迫されるくらいの強さで巻くことがポイントです。
手くびを起こした状態で固定するサポーターです。いたんだ筋肉にあまり力を入れずに手を使用する事が出来ます。当クリニックでは、ハンドセラピストが患者さんの手に合わせて作成します。
いずれのタイプも有効とされており、患者さんの仕事やスポーツ等の状況にあわせて使い分けています。
リハビリテーション
テニス肘の方は、手くびを起こす筋肉が硬くなったり、筋力が落ちている事が多いので、ストレッチや筋力トレーニングを行います。即効性はありませんが、継続する事で痛みに有効です。
様々な方法がメディアで紹介されていますが、それらが必ずしもご自分にあった方法とは限りません。当クリニックでは、ハンドセラピストが患者さんの肘の状態を確認した上で、適切な方法をお教えいたします。
神経の障害が考えられる場合、神経の滑りを良くする神経滑走訓練エクササイズも追加します。
ステロイド注射
痛みのある肘の外側にステロイドを注射します。痛みの緩和に有効です。当クリニックでは、エコーを見ながら確実に腱の部分に注射をします。
数カ月間は効果が持続することが多いのですが、注射を受けた人と、注射以外の治療を受けた人を比較したところ、1年後の痛みに差はなかったという報告があり、長期間の効果はあまり期待できないようです1。
劇的に痛みがよくなる事が多いので、注射のみを希望される方もいらっしゃいますが、ステロイドにはいたんだ腱を治す作用はありません。
繰り返す事で、逆に腱がもろくなったり、再発しやすくなる可能性もありますので、他の治療も行いながら、注射は最低限にとどめる事をおすすめします(詳しくはコチラ)。
手術・PRP療法
前述したようにテニス肘は自然治癒する傾向が強いとされていますが、半年〜1年経過しても改善がない場合、手術治療を考慮します。
どうしても手術は避けたいという方には、再生医療の一つであるPRP療法も行っております(自費診療となります)。
手術・PRP療法について詳しくはコチラ
(文責・イラスト:院長)
参考文献
- Lateral epicondylitis: review and current concepts.
Faro F, Wolf JM. J Hand Surg Am. 2007 Oct;32(8):1271-9. -
Joint capsule attachment to the extensor carpi radialis brevis origin: an anatomical study with possible implications regarding the etiology of lateral epicondylitis.
Nimura A, Fujishiro H, Wakabayashi Y, Imatani J, Sugaya H, Akita K. J Hand Surg Am. 2014 Feb;39(2):219-25. -
Risk factors in lateral epicondylitis (tennis elbow): a case-control study.
Titchener AG, Fakis A, Tambe AA, Smith C, Hubbard RB, Clark DI. J Hand Surg Eur Vol. 2013 Feb;38(2):159-64.