ばね指の手術は簡単なの?
- 2022年11月10日
- 手の病気・ケガ
注射などの治療でばね指が改善しない場合、手術を提案されることがあるかもしれません。ネットを検索すると、「腱鞘を切開する短時間の手術」との記載が多く、「簡単な手術です」と説明されることもあるようです。ここでは、ばね指の手術は簡単なのか?を解説いたします。
ばね指の手術は簡単なの?
手術手技は比較的シンプルですが、簡単とは考えていません。その理由について説明いたします。
原因がA1腱鞘(だけ)ではない場合がある
指には屈筋腱が通る腱鞘がたくさんあります。
ばね指の多くはA1腱鞘の肥大によるもので、この腱鞘を切開することで腱の通りが良くなり症状が改善する、という説明が多いですが、A1腱鞘のみの切開では、ひっかかりが改善しない場合があります。
イラストのように、A2やA3腱鞘、手のひらを保護する手掌腱膜が一部腱鞘のようなトンネルになっている部分があり、これらも原因となるのです1)。
腱鞘以外にも原因となりうる部分があります。
指には2本の屈筋腱が通っています。第二関節を動かす腱(浅指屈筋腱)は途中で穴が空いており、その間を第一関節を動かす腱(深指屈筋腱)が通過しているのですが、この部分で腱の通りが悪くなる事もあります。
他にも、
- 腱周囲の炎症を起こした組織(滑膜)
- 浅指屈筋腱と深指屈筋腱の癒着
- 変性・肥大化した浅指屈筋腱
- 腱鞘内での浅指屈筋腱の脱臼2)
などが原因となる可能性があります。
このように比較的まれとは言え、考えうる原因は多岐にわたるため、A1腱鞘を切開しても、ひっかかりが改善しない時、
「他の原因は何か・どこか?」「次に行うべき手技は何か?」
を即座に判断し、実行出来る能力が術者には求められるのです。
また上にあげた原因は、手術前のエコー検査などでは診断できない事もあります。実際の目で見ないとわからない場合もあるので、当クリニックでは経皮的腱鞘切開などの「切らない手術」は基本的に行っておりません(※経皮的手術を否定するものではなく、個人的見解です)。
ひっかかりの原因が、そもそもばね指ではない
手術手技ではないのですが、指のひっかかりをきたす疾患はばね指だけではありません。例を上げると、
- 手の拳部分での伸筋腱の脱臼
- 指の付け根の関節(MP関節)での伸筋腱のひっかかり
- 第二関節レベルでの伸筋腱側索と骨のひっかかり
などがあります。
これらが原因であれば、腱鞘を切開しても当然症状は改善しませんので、事前の正確な診断が重要となります。
「指がひっかかる → ばね指 → A1腱鞘の切開手術」というものばかりではない事を知っていただければ幸いです。指のひっかかり・痛みでお困りの際は、お近くの手外科専門医を受診くださいませ。
(文責・イラスト:院長)
参考文献:
-
Distal stenosing tenosynovitis.
Rayan GM.J Hand Surg Am. 1990 Nov;15(6):973-5. -
Persistent Trigger Finger Due to Tendon Subluxation.
Akiki RK, Kalliainen LK.J Hand Surg Am. 2021 Jul;46(7):628.e1-628.e3.