クライマーの手のケガ 腱鞘損傷
- 2020年6月21日
- 手の病気・ケガ
目次
オリンピック種目にもなり、スポーツクライミングがブームとなっていますが、手にトラブルが起こりやすいスポーツです。ここでは、クライミングのケガで最も多い、腱鞘損傷について説明いたします。
腱鞘って何?
指を曲げる屈筋腱を骨に近い位置に維持する事が、腱鞘の役割です。腱鞘があることによって、屈筋腱を引っ張る筋肉の力を、関節を曲げる力に変換する事が出来ます。
指にはたくさんの腱鞘がありますが、重要なのが、A2、A3、A4と呼ばれる部分です。
なんでクライミングは指に負担がかかるの?
クライミングには様々なグリップが用いられますが、指に最も負担がかかるのが、フルクリンプと呼ばれる方法です。
フルクリンプでは、屈筋腱が骨から離れようとする力が強くかかります。その力は30-40kg程度あるとの研究もあります。
どうやって腱鞘がいたむの?
フルクリンプで腱鞘に加わる力は、腱鞘が断裂する一歩手前であるとされており1、指がホールドから外れたり、足を滑らせると、腱鞘が損傷・断裂してしまいます。
指の長さや位置などの理由で、中指と薬指に多いです2。
症状は?
痛み
腱鞘が損傷した瞬間、痛みと腫れが起きます。「音が聞こえた」とおっしゃる方も多いです。
握力・可動域低下
腱と骨の距離が拡がるため、筋肉の力が有効に伝達されなくなり、握力と指の関節可動域が悪化します。
どうやって診断するの?
エコー検査が有効な診断法です
正常では腱と骨は接して写ります。
腱鞘が断裂すると、腱が浮き上がって見えます。
どうやって治療するの?
損傷の程度、いたんだ腱鞘の数によって異なりますが、手術せずに治療出来る事が多いです。
手術以外の治療
- 2週間程度、指を伸ばした状態で固定します。
- その後、テーピングや装具で指を保護しながら、リハビリを開始します。
- クライミングへの復帰は2-3ヶ月必要です。
手術治療
- 複数の腱鞘が断裂している場合、手術となる事があります。
- 断裂した腱鞘は縫えない状態なので、他の部分から腱などを採取し、新しい腱鞘を作ります。
- クライミング復帰は半年近くかかります。
予防法は?
トレーニング不足、手の使いすぎがリスク因子とされており、準備運動や十分な休憩を取ることが重要です。
フルクリンプでのホールドを多用していないか、自分のスタイルを見直すのも有効かもしれません。
スポーツクライミングはダイナミックで魅力的なスポーツですが、手のケガと隣合わせです。このスポーツを長く続けるため、十分なトレーニングと予防に努めましょう。
「いためてしまったかな?」と思ったら、手外科専門医の診察を受けられることをオススメいたします。
(文責・イラスト:院長)
参考文献
- Injuries to the finger flexor pulley system in rock climbers: current concepts.
Schöffl VR, Schöffl I.
J Hand Surg Am. 2006 Apr;31(4):647-54. - Hand injuries in rock climbing.
Merritt AL, Huang JI.
J Hand Surg Am. 2011 Nov;36(11):1859-61.