ヘバーデン結節は治らない? 〜手指の変形性関節症〜|まえだ整形外科・手のクリニック|東京都杉並区にある手外科・整形外科

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手肘疾患の解説ページ(ブログ)

ヘバーデン結節は治らない? 〜手指の変形性関節症〜|まえだ整形外科・手のクリニック|東京都杉並区にある手外科・整形外科

ヘバーデン結節は治らない? 〜手指の変形性関節症〜

指の第一関節が変形したり痛くなるヘバーデン結節。手の変形性関節症の中で最も多く、悩まれている方が多いです。

ヘバーデンとは、イギリスの医師の名前で、第一関節に発生する変形性関節症をヘバーデン結節と言います。

変形性関節症って何?

関節にある軟骨がすり減ったり、骨が増殖し、痛みや変形をおこす病気です。

変形性関節症は、体のあらゆる部位に発生しますが、手の変形性関節症は、圧倒的に数が多く、特に日本人に多い病気です(70歳以上の方にほぼ100%発生していたとする研究もあります)

放置するとどうなるの?

手の変形性関節症は、関節リウマチなどと違い、自然に痛みが治まることが多いとされています。

整形外科にかかっても、”放っておけば治る”と言われることが多いようですが、症状が落ち着くまでの期間は、誰にもわかりません。1~2年の方もいれば、もっと長い方もいます。

ヘバーデン結節は遺伝する?

複数の遺伝的要因・環境要因が組み合わさって発生すると考えられています。

手の変形性関節症の場合、6割程度が遺伝的要因であるとの報告があります1

どんな人がなりやすい?

手の変形性関節症の「症状」は更年期以降の女性に多く発生します。

「症状は」と記載しましたが、軟骨のすり減りや変形自体は男性にも起こり、その変化自体の発生率は男女変わりないとする報告もあります。

ですが、痛みなどの訴えは圧倒的に女性に多く、女性ホルモン(以下エストロゲンと記載します)の減少が大きく関わっていると考えられています。

エストロゲンが減るとなぜ手が痛くなる?

エストロゲンはエストロゲン受容体にくっついて様々な作用を発揮します。

このエストロゲン受容体は、乳腺や子宮・卵巣といった女性特有の臓器だけでなく、骨や皮膚など他部位にもたくさんあります。

特に手の症状に重要なのが、「滑膜」のエストロゲン受容体です。滑膜は関節や腱を栄養し、手のスムースな動きをもたらします。

更年期になり、滑膜のエストロゲン受容体にくっつくエストロゲンの量が減ると、滑膜は炎症を起こし痛みにつながり、スムースに動きにくくなり、こわばりが発生しやすくなるのです。

この炎症の持続が関節の変形につながりますので、炎症の沈静化が治療・変形の予防に重要となります。

年のせいなの?

年齢が上がれば発生率は高くなりますが、”年のせい”とひとくくりには出来ません。同じ年齢でも、なる方とならない方がいます。

遺伝や環境、ホルモンバランスの変化など様々な要因が複雑に絡みあい発生すると考えられています。

ヘバーデン結節の症状

痛み・はれ

最も多い症状で、手を使うと痛みが出ますが、悪化すると何もしていない時でも痛みが続くこともあります。

変形

軟骨のすり減りや、骨のでっぱり(骨棘)により、関節部分が膨らんだり傾いたりします。関節を支える手綱の役割をする靭帯もゆるむため、物をつまむ時など、関節がグラグラし、力が入りにくくなります。

また、手は人目にふれるところですので、見た目が気になり、人前に手を出したくないとおっしゃる方もいます。

水ぶくれ(ミューカスシスト・粘液のう腫)

関節のそばに水ぶくれのような物が出来ることがあります。これは皮膚の病気ではありません

関節は、関節包という袋におおわれており、関節の健康を保つ関節液という水分で満たされています。骨棘が出来ることで、関節液の出し入れがうまくいかなくなり発生すると考えられています3

整形外科以外にかかり、つぶしたり、冷凍凝固といった治療を受けているが、一向に治らないという方も多くおられます。

爪の変形

爪が凸凹になったり、線が入ったりします。

爪をつくる爪母という部分は、関節に非常に近いため、影響をうけて爪の変形が発生します。

最初の症状が痛みではなく、爪の変形である場合、皮膚科などで治療を受けられている方も見受けます。

結局治らないの?

インターネットでヘバーデン結節で検索すると、「ヘバーデン結節が治りました」という検索候補が出てきます。

患者さんによって「治る」のイメージは異なります。

  1. 痛みをとる
  2. 形をなおす
  3. 元通り(減った軟骨を増やし、形や動きも正常となる)

といった具合です。

1.に対しては、薬や注射・装具・手術、2.に対しては手術といった方法がありますが、3.は現在の医療では困難です。

すり減った軟骨や骨の変形が、完全に元通りにならないという意味では”治らない”ですが、痛みなどの症状が”治らない”ことはありません。

ヘバーデン結節の治療の実際

関節の炎症を鎮める治療

関節や腱などに存在する滑膜の炎症が痛みを引き起こし、炎症が続くことにより変形につながると考えられていますので、この炎症沈静化の手段として以下の治療があります。

スプリント

物理的に関節の動きを抑えることで、炎症を起きにくくします。

このスプリント治療にはエビデンスがあり、夜間のみの装用でも有効とされています。当クリニックでも過去に効果を検証しましたが、約7割の患者さんに有効という結果が出ております。

副作用もなく、夜間のみ装用であれば邪魔にもならないため、当クリニックでは最初の治療として行うことが多いです。

現在では市販品も出ておりますが、当クリニックではハンドセラピストが患者さんの指の形にあわせ作成しています。

テーピング

これはご自身で可能です。テーピングテープでも小さく切った湿布でも構いません。

2-3重に関節に巻き付ければ固定効果が得られます。コチラもご覧ください。

エクオールサプリメント

大塚製薬HPより引用

ヘバーデン結節は更年期以降の女性に多く、エストロゲンの減少が大きく関わっているとされています。

エクオールは大豆を摂取すると腸内細菌で代謝されて出来るものですが、化学構造がエストロゲンに非常に似ており、エストロゲン減少による関節症状の緩和を期待できます。

最近では手の症状に対するエクオールの効果に関して論文・発表がいくつか出てきていますが、有効率は60%前後とする報告が多いです。

手指以外にも以下のような効果もあるとされており、当クリニックでも摂取をおすすめしています。

  • ほてりの軽減
  • メタボリック症候群の改善
  • 骨密度上昇
  • 乳癌の予防などなど

 

変形が軽度であれば、エクオールのみでよくなる場合もありますが、当クリニックではスプリントやエクササイズといった治療と組み合わせての摂取をおすすめしています。

詳しくはコチラをご覧ください。

ステロイド注射

炎症鎮静効果の高いステロイドを関節へ注射します。

効果は非常に高いのですが、理論的には軟骨を支える骨が弱くなる可能性もあり、腫れや痛みが非常に強い時のみにとどめておく必要があります。

PRP療法

再生医療の一つです。炎症や痛みの緩和、進行予防、軟骨再生といった効果が期待されます(ただ魔法のように軟骨が生えてきて関節が若返るというわけではありません)。

自費診療となりますが、当院でも希望される方には行っております。詳しくはコチラをご覧ください

関節の動きを改善する治療

リハビリ(ハンドセラピィ)

ヘバーデン結節患者さんは「手がこわばる」とおっしゃる方が多いです。この原因として

  • 関節を栄養し、動きを円滑にする滑膜の機能低下
  • 腱鞘炎による腱のすべり(滑走)の低下
  • 関節を動かす筋肉、特に手の中にある「内在筋」の柔軟性・筋力の低下

などが考えられます。

そこでストレッチや筋力トレーニング、関節可動域を拡大するエクササイズ等を組み合わせたハンドセラピィを行います。

「手のリハビリなんて効果あるの?」と思われるかもしれませんが、これには高いエビデンスがあり、動きや筋力だけでなく痛みの改善効果もありますので、当クリニックでも積極的に取り組んでいます。

ただしやみくもに動かせば良いというものではありませんので、ハンドセラピストが患者さんそれぞれの手の状態にあわせたエクササイズを提案させていただきます。

また生活やお仕事において、負担のかからない手指の使用法も提案いたします。

手術

上記のような治療で症状が緩和する方が多いですが、3-6ヶ月程度の治療でも改善がない、変形がひどいといった場合に手術治療を検討します。

関節固定術

指の第一関節を金属で固定する、ヘバーデン結節手術のゴールドスタンダードです。

軟骨を取り除くので、時間がたつと関節がなくなり、痛みがとれます。骨棘という余分な骨も同時に切除するので、見た目もほっそりします。

動きがなくなるのがデメリットですが、指全体の動きの範囲からすると、小さな角度です。細かな作業を必要とされる方や、利き手の人差し指には向かない場合があります。くわしくはコチラをご覧ください。

粘液のう腫切除術

ヘバーデン結節にともない発生する水ぶくれ(粘液のう腫・ミューカスシスト)を切除する手術です。

絶対に取らなければいけない物ではありませんが、大きくなると皮膚が薄くなり、ちょっとぶつけたり、何もしなくても破れてしまうことがあります。粘液のう腫は関節とつながっているため、破れると外からバイキンが入り、関節の感染症をおこす恐れがあります。

皮膚科で冷凍凝固治療などを受けられる方がいらっしゃいますが、のう腫の原因は関節に発生した骨棘なので、これを取り除かなければ再発を防ぐことが出来ません。

手術では、のう腫と一緒に原因となっている骨棘を切除します。

のう腫の上の皮膚が非常に薄くなっている場合、のう腫と骨棘を切除すると、皮膚が欠損してしまう事があります。

この場合、イラストのように「皮弁」というものを作り、皮膚を移動することで、欠損した皮膚をおおいます。

骨棘切除術

骨のトゲ(骨棘)を切除する手術です。出っ張った骨を削るので、見た目の改善効果がある程度は期待出来ます。
この骨棘が痛みの原因の一つとも考えられており、除痛効果も比較的高いとする論文もあります。

当クリニックでは、基本的には関節固定術をおすすめしております。

関節固定術と異なり、関節の安定性や動きに関与する靭帯や腱を温存する必要があるため、骨棘の切除量には限界があります。
見た目もほっそり、関節も動くという理想的な状態とするにはなかなか難しく、「どうしても関節を固定したくない!」という方のみに行っております。


手の不調で整形外科を受診し、「年のせいです」「放っておけばいずれ良くなる」「治療はありません」などと言われてしまった経験がある方もおられるかもしれません。

全く元通りの形と機能に戻すことは、現代の医療レベルでは不可能ですが、痛みの軽減、進行の予防、手の機能改善を得るための治療はありますので、あきらめず手外科専門医を受診されることをおすすめいたします。

(文責・イラスト:院長)

参考文献

  1. Risk factors for osteoarthritis: genetics.
    Spector TD, MacGregor AJ. Osteoarthritis Cartilage. 2004;12 Suppl A:S39-44.
  2. Osteoarthritis of the hand I: aetiology and pathogenesis, risk factors, investigation and diagnosis.
    Leung GJ, Rainsford KD, Kean WF. J Pharm Pharmacol. 2014 Mar;66(3):339-46.

  3. Mucous cysts.
    Budoff JE. J Hand Surg Am. 2010 May;35(5):828-30

前田 利雄

記事監修

院長 前田 利雄
(まえだ としお)

  • 昭和大学医学部卒 医学博士
  • 日本手外科学会認定 手外科専門医・指導医