手根管症候群の内視鏡手術 〜メリットとデメリット〜|まえだ整形外科・手のクリニック|東京都杉並区にある手外科・整形外科

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手根管症候群の内視鏡手術 〜メリットとデメリット〜|まえだ整形外科・手のクリニック|東京都杉並区にある手外科・整形外科

手根管症候群の内視鏡手術 〜メリットとデメリット〜

手根管症候群の患者さんは非常に多くおられ、手術治療が必要な方も少なくありません。当院では本年度より内視鏡を用いた手術(ECTR:鏡視下手根管開放術)を導入いたしましたので、解説させていただきます。

出典:Arthrex

当クリニックでは現在まで、拡大鏡で手根管内部を観察しながら行う小皮切直視下手根管開放術(Mini-OCTR)を行ってきました。OCTRでも傷は手のひらに1.5~2cm、手くびに1~1.5cm程度であり、内視鏡手術とあまり変わらないのですが、さらなる低侵襲化のため内視鏡を導入しました。

内視鏡手術のメリットは?

  • 生活やお仕事への早期復帰
  • つまみなどの力が比較的早期から得られる
  • 傷に関する痛みや違和感が少なく短期間で改善する

といった点です。

内視鏡では手根管の内部がよく見え、最小限の操作で手根管を開放できるため低侵襲であり、上記のメリットにつながると考えています。

内視鏡手術はすべてにおいて優れているのか?

そうとも言えません

直視下手根管開放術の手術後、ピラーペインと呼ばれる手のひらの痛みや違和感が発生しやすいと言われています。
原因はまだ良くわかっておらず、内視鏡手術でも発生することがあり、発生率は直視下手術と大きく違わないとする報告もあります。

内視鏡手術に適さない場合もある

  • 手首の骨折後や関節リウマチなど、手首の変形が強い
  • 手根管内の異常血管(正中動脈)や神経の先天奇形
  • 手根管内を走る腱の高度な炎症(腱滑膜炎)

などです。これらに内視鏡手術を行うと、神経損傷などの思わぬ合併症を引き起こす可能性があります。

一般的に低侵襲とされる内視鏡手術が逆に危険であるケースもあるのです。

当クリニックでは事前にエコーなどの検査を行い、これらの異常がないかを確認し、内視鏡手術が安全に行えるかどうかを検討しています。

最も重要なのは、「安全に手根管を開放」して「しびれなどの症状を改善する」ことであり、「傷を小さくする」ことが最優先ではありません。

内視鏡手術のリスクが高いと判断すれば、手術中に直視下手術に変更する場合もあります。

クリニックでの鏡視下手根管開放術の実際

実際のおおまかな手順をイラストを交え説明いたします。

エコーで正中神経を観察

異常血管や神経奇形の有無、正中神経の親指への分岐パターンなどを観察します。

皮膚切開

手のひらに1.5cm、手首に1cm程度の皮膚切開をします。

手根管出口の観察・処置

手のひらの傷から、手根管の出口を肉眼(拡大鏡)で確認します。この部分は、

  • 近くに血管がある
  • 母指球筋への正中神経の枝の分岐パターンにはバリエーションがある
  • 内視鏡のみだと、手根管より先の靭帯の切り残しの可能性がある

といった理由から、この部分は直接確認するのが安全・確実と考えています。

手根管内部を内視鏡で観察

手首から筒、手のひらから内視鏡を入れ、手根管の内部を観察します。

靭帯(手根管の屋根)を切離

内視鏡を見ながら、手根管の屋根である靭帯を切ります。

手術後

内視鏡手術だからといって、手術後すぐに制限なしで手を使用すると、痛みなどの症状が長引くという報告もありますので、負担のかかる作業は1-2週間程度は控えておいた方が無難です。


内視鏡を用いた手根管症候群の手術は低侵襲で良い方法ですが、すべての患者さんに適応となるわけではなく、デメリットもゼロではありません。手術を検討される際は、担当ドクターとよく相談される事をおすすめします。

(文責・イラスト:院長)

参考文献:

  1. Our Surgical Experience: Open Versus Endoscopic Carpal Tunnel Surgery.
    Gould D, Kulber D, Kuschner S, Dellamaggiorra R, Cohen M. J Hand Surg Am. 2018 Sep;43(9):853-861.

  2. Predicting Clinical Outcome After Surgical Treatment in Patients With Carpal Tunnel Syndrome.
    Jansen MC, Evers S, Slijper HP, de Haas KP, Smit X, Hovius SE, Selles RW. J Hand Surg Am. 2018 Dec;43(12):1098-1106.

  3. 重度手根管症候群に対する固有示指伸筋腱移行による対立機能再建術
    森谷浩治、吉津孝衛,成澤弘子,原敬、柳橋和仁,牧裕
    日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand),第 32巻 第3号 216-219,2015

前田 利雄

記事監修

院長 前田 利雄
(まえだ としお)

  • 昭和大学医学部卒 医学博士
  • 日本手外科学会認定 手外科専門医・指導医