母指CM関節症の手術方法|まえだ整形外科・手のクリニック|東京都杉並区にある手外科・整形外科

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手肘疾患の解説ページ(ブログ)

母指CM関節症の手術方法|まえだ整形外科・手のクリニック|東京都杉並区にある手外科・整形外科

母指CM関節症の手術方法

母指CM関節症は、スプリントやリハビリ、注射といった保存治療により多くの方は改善します。しかしどうしても症状が取れない場合、手術治療を検討します。ここでは、当クリニックで行っている代表的な手術方法をご紹介いたします。

1.骨・関節の変形がなく、関節の不安定性が高度な場合:靭帯再建術

若い方に多いのですが、軟骨のすり減りも、骨の変形も一切ないのに痛いという方がおられます。

原因は生まれつきの靭帯のゆるさである事が多いです。ほとんどの方は、装具やリハビリ治療を徹底して行えば良くなるのですが、半年以上治療を行っても改善がない場合、手術を検討します。

軟骨は正常なので、関節をささえる靭帯を再建・補強する手術を行います。
母指CM関節を安定化させる手術方法は多数報告されており、どれがベストかの結論はまだでておりません。

母指CM関節 靭帯再建術

インターナルブレイス

最近当クリニックでは、人工靭帯を用いたインターナルブレイスと呼ばれる方法を行っております。

 2.変形が比較的軽度な場合:第1中手骨骨切り術

軟骨のすり減りが比較的軽度で、関節の不安定性(靭帯のゆるみ)がそれほど高くない場合に行っています。

亜脱臼があると、親指先端からの力がうまく受け皿の骨(大菱形骨)に伝わりません。

母指CM関節症 骨切り

第1中手骨骨切り術

そこで大菱形骨にまたがっている第1中手骨の骨を切り、関節に加わる力を正常に近づける方法です。

3.変形が進行している場合

軟骨がほぼ無くなっているような進行例では、2つの方法があります。

A. 関節形成術

母指CM関節の土台である大菱形骨を一部、またはすべて摘出し、ご自身の腱や人工靭帯で第1中手骨を吊り上げ関節を安定させる方法です。

以前は患者さんご自身の腱と人工靭帯を併用した方法を行っていましたが、患者さんの負担を減らすため人工靭帯の設置方法などを工夫し、人工靭帯のみで行う事が多くなっています。

大菱形骨を切除した部分は最初は空洞ですが、時間経過とともに自分の組織(瘢痕組織)で埋まると考えられています。

しかし埋まった組織は骨のような強固な安定性はないため、生まれつき関節が非常に柔らかい方などは、手術後に力が入りにくい感じが生じる事があります。

B. 関節固定術

大菱形骨と第1中手骨を固定する方法です。当クリニックでは強固な固定力が得られるプレートを主に用いています。

最終的に2つの骨は癒合し1本の骨となるため、親指が非常に安定し、力を入れやすくなることが最大のメリットです。
一方、3つある関節の1つを固定するので、動きはある程度制限されるのがデメリットです。

関節固定の説明をすると「親指が動かなくなるのは困る!」と仰るかたが多いのですが、残りの2つの関節と、母指CM関節の手前にあるSTT関節が動いてくれますので、著しく動きが制限されることはありません。
(関節固定後の親指の動きに関しては、コチラの記事をご覧ください)

お仕事や生活、スポーツ等で親指に力が欲しい方が良い適応とされていますが、生まれつき関節が非常に柔らかい方にも良いのではないかと考えています。

手術をすればすぐに痛くなくなる?

手術と聞くと、「手術後すぐにすべての症状が改善する」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、腫瘍を切除するような手術と異なり、手外科を含む整形外科手術の場合、回復にはある程度の時間が必要という傾向があります。

母指CM関節症の手術後の痛みの経過はイラストのようなイメージです。
ブルーの点線のように手術後1~2ヶ月で痛みが大きく改善する方は
20%程度ですので、根気よくリハビリを続けながら時間を待つ必要があるのです。

どうしても手術したくない!

手術はどうしてもイヤ!怖い!という方には、以下の提案もしております。

A. PRP(PFC-FD)療法

これはご自身の血液を採取し、血液中の血小板に含まれる成長因子を関節へ注射するという方法です。

自費診療となりますが、ご自身の血液から作成するものでリスクがほぼなく、注射後の安静期間もないので、生活やお仕事への支障を最小限とすることが出来ます(効果には個人差があり、必ずしも手術の代用となるとは限りません)。

詳しくはコチラをご覧ください。

B. 関節鏡視下滑膜切除術

これは手術ではあるのですが、骨や軟骨はさわらずに、内視鏡で関節内の炎症を起こした組織(滑膜)を切除するのみという方法です。

メリットとして

  • 内視鏡なので低侵襲(数mmの小さな傷数カ所)
  • 手術後の固定期間が短い(包帯などの簡易固定を1~2週間程度)

デメリットとして

  • 骨や軟骨はそのままなので、痛みが取り切れなかったり、取れても将来再発し、別の手術が必要となる可能性がある

といった点があります。

当クリニックでは設備がまだ整っておらず、昭和大学病院手外科グループによる手術となります(クリニックでも来年度より開始できるよう、準備を進めております)。

まずはハンドセラピィ!

母指CM関節症の手術方法を解説させていただきましたが、手術が必要となる方は、全体の20-30%とされています。手術をしないで済むなら、それに越したことはありません。

当クリニックでも、安易に手術をオススメすることはしておらず、リハビリを中心とした手術以外の治療を積極的に行っています。詳しくはコチラをご覧ください。

(文責・イラスト:院長)

参考文献:

  1. Ligament reconstruction tendon interposition arthroplasty for basal joint arthritis. Rationale, current technique, and clinical outcome.
    Tomaino MM. Hand Clin. 2001 May;17(2):207-21. Review.

  2. Suture Suspension Arthroplasty for the Treatment of Thumb Carpometacarpal Arthritis.
    Weiss AC, Kamal RN, Paci GM, Weiss BA, Shah KN. J Hand Surg Am. 2019 Apr;44(4):296-303. 

  3. 母指CM関節症に対するLRTI法とSuture-Button suspensionplastyの併用手術―Hybrid suspensionplasty.
    川崎恵吉, 稲垣克記,根本哲也,筒井完明,黒田拓馬,坂本和歌子
    日本手外科学会雑誌 34(6): 1065-1068, 2018.

前田 利雄

記事監修

院長 前田 利雄
(まえだ としお)

  • 昭和大学医学部卒 医学博士
  • 日本手外科学会認定 手外科専門医・指導医