肩の痛みの意外な原因 〜手根管症候群〜
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肩の痛みで整形外科を受診される方は多いと思います。五十肩や腱板損傷といった肩自体に原因がある場合が多いですが、中には手根管症候群のような手の神経障害が原因となっている事もあります。
手根管症候群は、手のしびれや痛み、筋力低下をきたす病気で、多くの患者さんがおられます。原因箇所は手首ですので、その症状は手首より先に現れるのが通常ですが、肩の痛みの原因になることもあります。
手が原因なのに、遠く離れた肩の症状が出ると聞くと、不思議に思われる方もおられるかもしれませんが、実は手根管症候群が肩の痛みの原因となることは古くから知られています。手根管症候群の患者さんの40%に肩や肘の痛みを認めたとする報告もあります。
なぜ手根管症候群で肩が痛くなるの?
なぜなのかはまだ良くわかっていません。手根管症候群になると、脳や脊髄の痛みに関する回路が変化し、痛みを感じやすくなる「中枢性感作」が発生するのではという説があります。
肩痛の原因として手根管症候群を疑ったほうが良いかもしれないケース
肩の痛みとともに、手のしびれや痛みがある。
肩の痛みや可動域制限があるが、エコーやMRIではっきりとした異常が見つからない。
このような場合、手根管症候群も原因のひとつとして考えたほうが良いかもしれません。
手のしびれや痛みがある場合は比較的疑いやすいのですが、肩の痛みを引き起こす手根管症候群は、軽症の事が多いとの報告もあり、患者さんご自身が手のしびれや痛みを自覚出来ないこともあります。
上記に当てはまる方は、左右の手の感覚をご自身で一度調べてみてはいかがでしょうか。
診断が難しいケース
MRIやエコーといった画像検査で肩に異常がある。
これは診断が難しいケースです。画像検査で肩に異常があれば、当たり前ですが肩の治療が最初に行われます。しかし、注射やリハビリといった治療を受けても一向に改善しないという場合、他の原因も考えて良いかもしれません。
肩の治療を色々と受けたが改善せず、手根管症候群の手術やブロック注射を受け、肩の痛みや運動制限がスッキリ良くなるという方もおられます。
最近では手根管症候群だけでなく、肘部管症候群も肩痛の原因となることが報告されています。
肩の治療を受けているが、なかなか良くならないという方、一度手外科専門医の診察を受けてみてはいかがでしょうか?
(文責・イラスト:院長)
参考文献:
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Zanette G, Cacciatori C, Tamburin S.
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Plast Reconstr Surg Glob Open. 2022 Feb 17;10(2):e4114.