親指半分だけがしびれる 〜原因がわからない!〜
- 2023年4月4日
- 手のコラム
手のしびれで整形外科・手外科を受診される方は多くいらっしゃいますが、親指が半分だけしびれるという症状は比較的まれです。親指がしびれる病気としては、手根管症候群や頚椎のヘルニアなどが代表的ですが、半分だけという事はありません。
イラストのように、親指の小指側半分のしびれ・痛みを訴えクリニックを受診される方が稀にいらっしゃいます。しびれという症状から、脳や頚椎のMRI、手のMRIなど様々な検査を受けたが、原因不明と言われたと仰る方もおられます。
これは「ボウラー母指」と呼ばれるもので、ボウリングボールの穴によって親指が圧迫され発生する神経障害です。ボウリングを一晩しただけで発生することもあり、ボウリングをよくされる方には比較的知られているようです。
親指の小指側の神経は、表面から触れることが出来るくらい浅い位置にあります。神経の下にはかたい骨しかなく、圧迫に非常に弱い場所なのです。そのため、固いものでの圧迫や、繰り返しの摩擦によって障害が容易に発生します。
ネットで「ボウリング 親指 しびれる」と検索すると、ボウラー母指についての記事がすぐにヒットします。
しかし「親指 しびれる」で検索すると、手根管症候群の記事ばかりが出てきます。
ボウリングのあとに親指がしびれたのであれば、原因は比較的すぐわかるのですが、やっかいなのはボウリング以外の日常生活や他のスポーツでも発生することです。
「ボウラー母指」は、海外ではJeweller’s thumb(宝石細工人の母指)とも呼ばれ1、写真のようなハサミの使用でも発生することがあります。きっかけが日常生活にまぎれていると、患者さんご本人がそれを認識できないケースもあるのです。
そのため診断・治療に最も重要なのは、「医師がこの疾患を知っているかどうか」です。
医師がこの「ボウラー母指」を知っていれば、患者さんへの詳細な問診と診察でほぼ診断がつきます。特別な治療が必要となることも少なく、親指へ負担のかかる動作を中止したり、サポーターなどで親指を保護することで、多くの方は症状が改善します。
ただ比較的まれな疾患のため、医師が知らないと過剰な検査を受け、原因がわからずに患者さんの不安がつのる事にも繋がりかねません。
もちろん他の原因が隠れている可能性もありますが、親指のしびれで悩まれている方は、一度手外科専門医を受診されることをおすすめいたします。
(文責・イラスト:院長)
参考文献
- The Jeweller’s Thumb: An Occupational Neuroma A Case Report.
Orthopedics. 1983 Apr 1;6(4):438-40.