関節を固定すると手が動かなくなる? 〜母指CM関節固定術について〜
- 2024年4月13日
- 手の病気・ケガ
進行した母指CM関節症の手術として、関節を固定する手術があります。
「関節を固定したら、親指が動かなくなるから困る!」とおっしゃる患者さんが多いのですが、ここでは母指CM関節を固定したあと、親指の動きがどう変化するのかについて解説いたします。
「関節を固定してしまったら、親指が動かなくなるんでしょ?」
このような疑問を持たれる患者さんは少なくありません。
実際、他の病院で関節固定術を提案され、「親指が動かなくなるのは困るから、他の方法はないのか?」と当クリニックを受診される患者さんもおられます。
これは片側の母指CM関節固定術を当クリニックで行った患者さんの写真です(患者さんの許可を得て、一部加工して掲載しております)。
パッと見てどちらが関節を固定したのか、おわかりになりますでしょうか?
固定術を行ったのは左です。
左右を比較し、「親指が動かなくなる」といった印象はないかと思います。
人間の手はよくできており、一つの関節を固定すると、他の関節がよく動くようになるのです。
母指CM関節固定術後、他の関節の動きがどうなるかの研究は多数行われており、STT関節(手首側)とMP関節(親指の先端から2番目の関節)の可動域が拡がることが報告されています。
また、一般的に関節可動域が良いとされている「関節形成術(土台の大菱形骨を一部・またはすべて切除する)」と関節固定術を比較した論文では、手術後1年で機能・関節可動域・筋力ともに差はなかったとの報告があります(2014年)。
この論文では、固定した2つの骨が最終的に一体化しない”偽関節”という状態となるリスクがあるため、関節形成術を推奨しています。しかし近年、当クリニックでも採用しているロッキングプレートなどの固定材料の進歩・手術手技の工夫によって、この偽関節リスクは大幅に下がっています。
関節固定術のメリット
- 親指の土台が安定するため、パワーを出しやすい(握力やつまみ力の改善効果が高い)。
- 関節形成術と比較し、痛みが早期に改善する。
- ジグザグ変形の矯正効果が高い。
といった点があります。
ジグザグ変形というのは進行した母指CM関節症の患者さんによく見られる変形で、イラストのような状態です。
見た目の問題もありますが、つまみ動作で力が入りにくくなります。関節形成術でも矯正はされる事が多いのですが、時間経過とともに元にもどってしまうケースもあり、一旦そうなると追加手術が必要となる場合もあるのです。
一方、関節固定術ではそのようなことはなく、矯正効果は永続します。
いかがでしたでしょうか?
「関節を固定する」=「親指が動かなくなる」ではない事を知っていただけますと幸いです。
お示ししたように関節固定術はメリットが多くある手術方法ですので、担当ドクターから手術を提案された場合、選択肢として除外せずに検討いただければと考えています。
(文責・イラスト:院長)
参考文献
Trapeziometacarpal arthrodesis or trapeziectomy with ligament reconstruction in primary trapeziometacarpal osteoarthritis: a randomized controlled trial.
Vermeulen GM, Brink SM, Slijper H, Feitz R, Moojen TM, Hovius SE, Selles RW.J Bone Joint Surg Am. 2014 May 7;96(9):726-33. doi: 10.2106/JBJS.L.01344.