音楽家のフォーカルジストニア
- 2020年5月1日
- 手の病気・ケガ
ある日突然、楽器がうまく弾けなくなった!そんな体験をされる音楽家の方が時にいらっしゃいます。その症状、フォーカルジストニアかもしれません。ここでは、手に発生するフォーカルジストニアについて説明いたします。
フォーカルジストニアとは?
楽器演奏における特定の動作のみ、身体のコントロールが思い通りにならなくなる病気です。
脳や脊髄・手などに病気があるわけではありません。管楽器奏者の唇や声楽家の声帯にも発生しますが、ここでは手に発生するフォーカルジストニア(以下ジストニアと記載します)について解説いたします。
なぜ治療が必要?
ジストニアが自然治癒したという報告はなく、治療を行わずにいると進行するとされています。
最初は楽器演奏の中でも、限られた技術を必要とする時のみに症状が発生しますが、放置すると他の演奏方法や日常生活にも支障が出る場合があると報告されています1。
痛みがないため、音楽家の方は単に練習不足であると捉えることが多いようで、逆に練習量を増やしてしまい、症状が悪化する場合もあります。
原因は?
残念ながら、原因はよくわかっていません。
手と脳は密接に関係しており、演奏訓練を続けることで、手に対応する脳の部分が発達することがわかっています2。
長時間の練習や複雑な演奏技術、レパートリーの変更、心理的ストレスなどがきっかけとなり、手と脳の関係に異常をきたし発生するのではないかと考えられています。
どんな人がなりやすい?
ジストニアになりやすいタイプとして、
- 高い演奏技術を持った方
- 演奏時間の長い方
- 幼少期から訓練をはじめた方
- 男性3などがあげられます。
また、楽器別でみるとピアノやギターに発生率が高いとする報告があります。
どんな症状?
徐々に症状が現れることが多いとされています。
他の病気と違い、ジストニアの場合、ある特定の演奏動作のみで症状が現れることが特徴です。
例えば、スケールの上昇は問題ないが、下降には支障がでるといった具合です。
また、演奏開始直後から症状が出る、休憩しても改善しないのも特徴で、演奏のしすぎ(オーバーユース)と異なる点です。
手のジストニアでは、ジストニアをおこしている指とは別の指が、反対の動作をしていることがよくあります。例えば、くすり指が曲がってしまい、人差し指が伸びるといった現象が発生します。この反対の動作をしている指を代償指と呼びます。
指別で見ると、中指・くすり指が曲がることが多く、人差し指が伸びることが多いようです。
治療は?
ジストニアの治療には、これが絶対という確立された治療法は、残念ながらまだありませんが、
- くすり
- ボツリヌス毒素注射
- 外科手術
- リハビリテーション
などがあります。当クリニックでは、スプリント治療やリハビリテーションをおこなっています。詳細はこちらを御覧ください。
(文責・イラスト:院長)
参考文献
-
Secondary motor disturbances
in 101 patients with musician’s dystonia.
Rosset-Llobet J, Candia V, Fàbregas S, Ray W, Pascual-Leone A.J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007 Sep;78(9):949-53. Epub 2007 Jan 19. -
The brain of musicians. A model for functional and structural adaptation.
Schlaug G.Ann N Y Acad Sci. 2001 Jun;930:281-99. -
The hand that has forgotten its cunning–lessons from musicians’ hand dystonia.
Conti AM, Pullman S, Frucht SJ.Mov Disord. 2008 Jul 30;23(10):1398-406.