手がしびれる病気 〜手根管症候群って?〜
- 2020年5月4日
- 手の病気・ケガ
目次
手がしびれる代表的な病気として、手根管症候群があり、非常に多くの患者さんがいらっしゃいます。ここでは、どんな病気か、診断方法等について説明いたします。
手根管症候群とは?
手くびにあるトンネルの中で神経が圧迫され、親指からくすり指のしびれや痛み、手の使いにくさが起こる病気です。
手くびには、骨と靭帯で囲まれた”手根管”と呼ばれるトンネルがあり、この中に正中神経という神経が通っています。
この神経は、親指~くすり指の感覚をつかさどっていると同時に、親指の肉球部分の筋肉にも命令を出しています。
トンネルの中で、様々な原因で神経が圧迫され、しびれや痛み、手の使いにくさといった症状を出すのが手根管症候群です1。
放っておくとどうなるの?
”手さぐり”がしにくくなります。
手は物をつかむ、握る、つまむなどの運動機能だけでなく、”手さぐり”という言葉があるように、感覚機能も持っています。
鏡を見なくてもボタンがかけられる、サイフからお金を出せる、暗い所でも物をさがせるのは、手の感覚が非常に優れているからです。
特に親指~中指の感覚は非常に重要であり、この部分の感覚が異常をきたすと様々な不都合が出てきます。病気が進行すると、”痛い””熱い”といった手を守る感覚も低下するため、ケガやヤケドの危険もあります。
物がつまみにくくなります
親指は他の指と違い、非常に大きな動きが可能です。これは、特殊な構造の関節と肉球部分の筋肉がなせる技です。
病気が進行すると、肉球部分の筋肉が痩せてしまいます。その結果、イラストのように親指と人差し指でマルが作れなくなったり、物がつまみにくくなります。
放置すると、完全な回復が得られない場合があります
患者さんの中には、”しびれているけど、大して困っていないから、このままでいい”という方もいらっしゃいます。
しかし病気はゆっくり進行するため、実際には手の機能が落ちているのに、その状態に慣れてしまっているだけという事もあります。
神経の病気は放置すると、神経の回復力が失われていきますので、治療をすれば治るという時期を逃してしまう可能性があります。
原因は?
多くは原因不明です(特発性)。
以下のものが原因で発生する場合もあります(続発性)。
- トンネル内のガングリオンや腫瘍
- リウマチなどによる腱の炎症
- 以前の手くびの骨折(橈骨遠位端骨折)
- 生まれつきの腱や神経の異常
- 手の使いすぎによる、手の中の筋肉(虫様筋)の肥大など2-3
どんな人がなりやすい?
手根管症候群は更年期以降の女性に多く発生します
複数回の妊娠や早期の閉経では、発生率が高く、ホルモン補充療法を受けている方では、逆に発生率が低い事が報告されており、女性ホルモンの減少が関与していると考えられています4-5。
妊婦さんや授乳中のお母さんは、ホルモンバランスの変動が大きいため、手根管症候群にかかる方もいらっしゃいます。この場合、症状は一時的であることがほとんどです。
最近ではスマホやパソコンの使用と手根管症候群の関係が注目されています
指や手くびの動きにより、神経の形態が変化する事が分かっており6、特にスマホを長時間使用する方は、神経が大きく、つぶれている傾向にあるとの報告もあり、注意が必要です。
どうやって診断するの?
診察
指先の感覚や、母指球(肉球部分)の筋力を測定します。
誘発テスト
しびれなどの症状を再現するテストです。ご自分でも出来ますので、しびれが気になる方は試してみましょう。
手くび部分を打腱器や指で叩くと、指先にひびくしびれがあります。
手くびを強く折り曲げると、しびれや痛みが悪化します。
検査
エコー検査
-
最近ではエコー装置の性能が向上し、手根管症候群の診断に用いられるようになってきました7。
手根管症候群では、トンネルの手前で神経が太くなっていたり、トンネルの屋根である靭帯が厚くなっており、この程度が病気の程度と関連するとされています。
エコー検査は体への負担がなく、手軽に検査出来ることが利点であり、当クリニックでも診断に用いています。
神経伝導速度検査
-
神経を電気で刺激し、神経内で信号が伝わるスピードなどを計測します。病気の程度が数値化出来るため、治療法選択に重要な検査です。
治療方法は?
診察や検査で重症度を診断し、治療方法を決めていきます。
当クリニックでの治療法は大まかに以下の通りです。
- 軽症:手の安静、リハビリ、くすり
- 中等症:ステロイド注射
- 重症:手術
治療法などは下の関連ブログをごらんください。
(文責・イラスト:院長)
関連ブログ
参考文献
- Carpal tunnel syndrome.
Bickel KD. J Hand Surg Am. 2010 Jan;35(1):147-52. -
Anatomic investigation of the role of the lumbrical muscles in carpal tunnel syndrome.
Siegel DB, Kuzma G, Eakins D. J Hand Surg Am. 1995 Sep;20(5):860-3. -
Lumbrical muscle incursion into the carpal tunnel during finger flexion.
Cobb TK, An KN, Cooney WP, Berger RA. J Hand Surg Br. 1994 Aug;19(4):434-8. -
Menopausal hormone therapy and the incidence of carpal tunnel syndrome in postmenopausal women: Findings from the Women’s Health Initiative.
Al-Rousan T, Sparks JA, Pettinger M, Chlebowski R, Manson JE, Kauntiz AM, Wallace R. PLoS One. 2018 Dec 4;13(12) -
Carpal tunnel syndrome in postmenopausal women.
Kaplan Y, Kurt SG, Karaer H. J Neurol Sci. 2008 Jul 15;270(1-2):77-81. -
Morphological Changes of the Median Nerve Within the Carpal Tunnel During Various Finger and Wrist Positions: An Analysis of Intensive and Nonintensive Electronic Device Users.
Woo EHC, White P, Lai CWK.J Hand Surg Am. 2019 Jul;44(7):610.e1-610.e15. -
Sonographic Findings Associated With Carpal Tunnel Syndrome.
Wessel LE, Marshall DC, Stepan JG, Sacks HA, Nwawka OK, Miller TT, Fufa DT. J Hand Surg Am. 2019 May;44(5):374-381.